目次
今回はピルの日本の使用割合について紹介するよ!
「日本のピルの使用割合ってどの程度なの?」
「日本と海外でピルの使用割合ってどれくらい違うの?」
国連が発行している「避妊法2019(Contraceptive Use by Method 2019)」によると、日本のピルの内服率は2.9%とされています。
(参考:Contraceptive Use by Method 2019)
欧米諸国では10%を下回る国はなく、日本での普及率・内服率の低さが諸外国と比較し圧倒的に低くなっているのが現実です。
では、なぜ日本ではピルが普及していないのでしょうか。ピルが普及しない理由やピルの効果について一緒に学んでいきましょう!
日本のピル事情と使用割合について
日本でのピルの使用割合や位置づけをみてみよう!
日本のピルの内服率・使用割合はわずか2.9%とされています。
(参考:Contraceptive Use by Method 2019)
東アジア地域でみれば中国や韓国と大きく差はありませんが、東南アジアの国では10%前後の国が多く、中には20%近い服用率の国もあります。
(出典:「避妊法2019(Contraceptive Use by Method 2019)」)
日本でのピルの使用割合は、避妊方法の中では3番目と低い位置ではありませんが、1番目のコンドームの1割以下の使用割合です。
日本と海外ではピルに対する捉え方・考え方、理解にどのような違いがあるのでしょうか。背景としては、十分な性教育が実施されているか、女性の社会進出環境が整っているかなどが考えられます。
ピルで使用割合が多いのは低用量ピル
ピルって実際よく分からないよね?ピルの特徴を勉強してみよう!
- ピルの種類は大きく4つ
- 低用量ピルの避妊効果について
ピルの種類は大きく4つ
ピルとは、卵胞ホルモンと黄体ホルモンという女性ホルモンと似た成分が配合されているお薬です。ピルには大きく4つの種類があり、主とするホルモンの種類と量によって以下のように分類されます。
種類 | 何が含まれている? | どういったものなの? |
超低用量 ピル | ・卵胞ホルモン(エストロゲン)の含有量が0.03mg未満 | ・「月経困難症」「子宮内膜種」の治療に用いられる ・日本国内では避妊目的での処方は行われていない |
低用量 ピル | ・卵胞ホルモン(エストロゲン)の含有量が0.03mg以上0.05mg未満 | ・主な使用目的は「避妊」 ・「経口避妊薬」や「OC(Oral Contraceptivesの略称)」とも 呼ばれる ・生理周期の安定化や肌荒れの改善効果などもある |
中用量 ピル | ・卵巣ホルモン(エストロゲン)の含有量が0.05mg以上 | ・整理予定日の移動にも用いられる ・「生理不順」「過多月経」「月経困難症」などの治療薬として用いられる |
アフター ピル | ・主成分が黄体ホルモン | ・緊急避妊薬として用いられる ⇒妊娠の可能性がある場合、72時間以内の服用で84%の避妊効果が期待される |
低用量ピルの避妊効果について
排卵の抑制
低用量ピルを服用すると排卵が抑制され止まり、排卵の停止によって避妊効果が得られるという仕組みです。排卵が止まる理由としては女性ホルモンが関係しています。
低用量ピルにはエストロゲンという女性ホルモンが含まれており、このエストロゲンは排卵に関係します。通常であれば身体の中でエストロゲンが分泌され、エストロゲンの分泌がピークを迎えると排卵が起こります。
低用量ピルを服用すると、低用量ピルからエストロゲンを摂取する形となりエストロゲンが分泌されなくなるという効果が得られます。エストロゲンの分泌が行われなくなり、付随して排卵も起こらなくなるという仕組みです。
受精卵の着床の抑制
妊娠するには、受精卵が子宮内膜に着床しなくてはなりません。女性の卵巣からは、黄体ホルモン(プロゲスチン)や卵胞ホルモン(エストロゲン)などの女性ホルモンが分泌されます。
女性ホルモンのはたらきは、子宮頚管粘液の量や粘度を調整し精子が子宮内を通過しやすくしたり、子宮内膜を分厚くふかふかにし受精卵が着床しやすくしたりすることです。
低用量ピルを服用すると、卵巣からの女性ホルモンの分泌が停止されるという仕組みです。また、低用量ピルに含まれる女性ホルモンの量は通常よりも少ないため、子宮内膜が分厚くならず、結果として着床が難しくなり避妊効果が得られます。
精子の侵入の阻害
性行為により、膣内に射精された精子は子宮頚管を通過し子宮内に侵入し子宮内の卵子と結びつき受精卵となります。射精された精子が子宮内に到達するためには、子宮頚管を通り抜ける必要があり、子宮頚管の通りやすさを左右するのが女性ホルモンです。
黄体ホルモンや卵胞ホルモンなどの女性ホルモンは子宮頚管の粘液の量や粘度を調整するはたらきがあります。低用量ピルの服用により、卵巣からの女性ホルモンの分泌は停止します。
低用量ピルに含まれる女性ホルモンの量は通常量よりも少なく、子宮頚管の環境整備が不十分となり、精子の侵入を阻害するという仕組みです。
そのほかの効果
低用量ピルには、避妊以外にも生理痛の緩和や月経前症候群(PMS)の緩和、生理周期の安定やニキビ・肌荒れの改善などの効果もあります。
低用量ピルの服用により子宮内膜の増殖や体内のホルモンバランスが整えられるため、このような効果が見込まれます。
ほかにも注目を集めているのは、若い時点からの低用量ピルの服用で卵巣がんや子宮体がん、大腸がんなどの発症リスクを下げられる効果です。ホルモンバランスを整えるはたらきが、がんの発症リスクにも結びつくとされているようです。
低用量ピルの年代別継続割合とQOLに与える変化
ピルの継続割合やQOLに与える影響ってどうなっているのかな?
神戸大学医学部医学医療国際交流センターと茶屋町レディースクリニックが行った調査を参考に、以下の2点について解説します。
- 年代別のピルの継続割合
- ピルの継続割合がQOLに与える影響
年代別のピルの継続割合
20歳以下 | 21歳以上 26歳未満 | 26歳以上 30歳以下 | 31歳以上 35歳未満 | 35歳以上 | |
3ヶ月以上継続 | 57.9% | 67.5% | 72.1% | 76.5% | 69.6% |
年代別のピルの継続割合は、年齢が上昇するにつれ継続率も上昇する傾向にあります。ただ、ピルの継続割合において年代ごとでの有意差は特に見当たりませんでした。
続いては、ピルの服用によってQOL(Quality of life)にどのような影響や変化を与えるかについてみていきましょう。
ピルの継続使用がQOLに与える影響と割合
<内服開始前>
20歳以下 | 21歳以上 26歳未満 | 26歳以上 30歳以下 | 31歳以上 35歳未満 | 35歳以上 | |
身体的領域 | 24.00 | 23.15 | 24.53 | 23.57 | 22.44 |
心理的領域 | 19.67 | 19.24 | 19.73 | 20.24 | 18.90 |
社会的関係 | 10.67 | 11.34 | 10.97 | 10.47 | 10.81 |
環境領域 | 27.56 | 27.49 | 27.67 | 27.24 | 26.80 |
その他 | 5.78 | 5.98 | 6.13 | 5.95 | 6.11 |
<内服開始3ヶ月月経過後>
20歳以下 | 21歳以上 26歳未満 | 26歳以上 30歳以下 | 31歳以上 35歳未満 | 35歳以上 | |
身体的領域 | 24.33 | 24.00 | 24.40 | 23.38 | 24.11 |
心理的領域 | 18.44 | 20.46 | 20.40 | 19.52 | 19.67 |
社会的関係 | 10.22 | 11.34 | 11.03 | 10.19 | 10.89 |
環境領域 | 27.33 | 28.20 | 28.10 | 27.71 | 27.11 |
その他 | 7.00 | 6.54 | 6.67 | 6.10 | 6.78 |
項目についての説明
まずは、それぞれの項目について簡単に説明していきましょう。
〈身体的領域〉
3つの項目に対し、7つの質問事項が設定されています。
- 痛みと不快
- 活力と疲労
- 睡眠と休養
質問事項に対する主観的な評価・感想により、QOLに与える影響を表します。
ピルの継続服用で身体の変化を実際に感じたかを表しているんだね
〈心理的領域〉
5つの項目に対し、6つの質問事項が設定されています。
- 肯定的感覚
- 思考・学習・記憶・集中
- 自己評価
- ボディイメージ
- 否定的感情
質問事項に対する主観的な評価や感想に基づき、QOLに与える影響を表しています。
ピルの継続使用で自身の感覚がどのように変わったかを表しているよ
〈社会的関係〉
3つの項目に対し、3つの質問事項が設定されています。
- 人間関係
- 社会的援助
- 性的活動
質問事項に対する主観的な評価や感想によって、QOLに与える影響を評価します。
パートナーとの関係性や、ピルの手に入れやすさや周囲からの理解などが影響を与えているよ
〈環境領域〉
8つの項目に対し、8つの質問事項が設定されています。
- 治安
- 居住環境
- 金銭関係
- 保健医療福祉サービスの利便性
- 新しい情報と技術を得る機会
- 余暇活動への参加と機会
- 生活環境
- 交通機関
質問事項に対する主観的な評価や感想から、QOLへの影響を評価しています。
ピルの継続的な服用によって生活面でどのような変化を感じたかを示しているよ
〈その他〉
全体的な生活の質について感じた変化などについて、2つの質問事項を実施します。
4つのうち、該当する項目が分からなかった感想などがここに入るよ
結果に対する考察
ピルの継続的な服用により、QOLにどのような変化が生じたのか、それぞれの項目別に考察をお伝えします。
〈身体的領域〉
全体的な割合として、ピルの継続使用によってQOLは向上していると考えられます。
メリット | ・整理の軽減 ・整理の周期の安定化 ・女性ホルモンが原因で起こる諸症状の改善 |
デメリット | ・悪心やむくみなどの副作用 |
ピルの継続的な服用により、安定的なリズムで女性ホルモンが分泌された結果がQOLの向上に結び付きました。
〈心理的領域〉
心理的領域では、全体的な割合としてQOLの向上はあまり見込めませんでした。
心理的な負担や、教育不足などが原因となり結果に結びついたと考えられます。
〈社会的関係〉
社会的関係もピルの継続的な服用において、QOLの向上はあまり見込めませんでした。
日本ではピルを購入するためには、医師の診察を受け処方箋を処方される必要があります。また、ピルの服用には副作用があり、負担を自身ばかりが享受している不公平感もQOLの低下に結びついていると考えられます。
〈環境領域〉
環境領域では全体的にピルの継続服用によってQOLが向上傾向にあるという結果になりました。
ピルの継続服用により女性ホルモンの分泌量・リズムが一定化され、諸症状の軽減が学業や仕事へ与える負担・不安が軽減されQOLの向上に結びついています。
〈全体的な観点、総括〉
全体的な観点としては、ピルの継続的な服用によってQOLは向上していると感じた方の割合が多くなりました。
ただし、効果やQOLの変化の感じ方には個人差があるよ!
日本でのピルの普及割合が伸びない3つの理由
どうして日本のピル普及割合は伸びないの?
気軽に手に入れにくい
現状、日本ではピルは医療用医薬品に該当するため、日本で購入・入手するためには医師の診察を受け処方箋を受け取る必要があります。市販薬の様にドラッグストアなどでの購入はできません。
また、ピルの取り扱いをしている調剤薬局併設のドラッグストアであっても、医師の処方箋がなければピルの購入はできません。
現在はインターネットの普及により、実際に足を運ばなくともオンラインで完結するオンライン診療などがありますが、医師の診断を受ける必要がある点は変わりません。この点がネックとなり、日本でのピルの普及割合は中々改善されない状況になっていると考えられます。
性教育が遅れている
日本では性教育の開始が高校生になってからと先進国の中ではもちろん、世界的に見ても非常に遅く、かつ遅れています。諸外国、イギリスでは未就学児の段階でアニメをモチーフに性犯罪予防のアニメが作成されていたり、お隣の韓国でも小学校高学年の時点で性暴力についての対策や万が一自分が被害にあった場合の相談先などを教えたりしています。
世界各国で性教育に関する制度はどんどん刷新されていっているにもかかわらず、日本ではおおよそ30年ほど前とほとんど変わらない内容の性教育を高校生に入ってからようやく実施しているような状態です。
こうした性教育に関する遅れが、ピルなどへの理解不測の背景となり使用割合が世界の中でも圧倒的に低い状態を招いています。
避妊手段が男性主導になっている
日本では性行為の際の避妊手段としてもっとも用いられているのが、コンドームです。割合としては、性行為の際に避妊行為を実行している人のおおよそ7~8割の方が選択しています。
この割合は世界的にもかなり多い割合であり、アメリカやドイツと比較するとおおよそ3~4倍くらいの割合です。
このように日本では避妊手段は男性が取るべきという雰囲気が強く、女性側が避妊手段を用いるというのは普及していない傾向にあります。
(参考:Contraceptive Use by Method 2019)
海外のピル普及割合の高さとその背景
海外でピルの普及率が高いのはなんでだろう?
十分な性教育
諸外国では、未就学児や小学生の段階から性教育の授業が設けられ性を理解する機会や知識の重要性を伝えています。早い段階での性に対する重要性に気がつき自衛手段などを考えるようになり、使用割合が高くなっていると予想できます。
女性の社会進出環境が整っている
近年では女性の社会進出が進んできているとはいえ、日本はまだまだ女性の社会進出環境が整っているとはいいがたいのが現状です。男性が育児や家事を支援する環境の整備ができていない企業が多い現実や、残業の必要性などがあり、男性が家庭のサポートをするのは現実的には厳しいです。
諸外国では、女性の社会進出環境が整えられており、産休・育休を経た後でも元のキャリアに復帰しやすい環境が整備されている場合が多くなっています。そういった環境も普及割合の高さを後押しする1つの要因と考えられます。
気軽に手に入れられる
諸外国では低用量ピルが市販されている場合が多く、ドラッグストアなどで購入が可能です。風邪薬や胃腸薬などの市販薬を購入するような感覚で、低用量ピルを購入できます。
価格もそのほかの市販薬と大きく差がないような価格帯である場合が多く、気軽に購入可能です。
ピルの使用割合についてよくある質問
ピルの使用割合についてよくある質問を考えてみよう!
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日本と海外でピルの使用割合に違いはある?
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日本と海外ではピルの使用割合に大きな違いがあります。日本のピルの使用割合はわずか2.9%です。対してアメリカは13.7%と約4倍近く普及しており、フランスやイギリスにいたっては20%以上を大きく上回るなど圧倒的な差が開いているのが現実です。
一方で、中国や韓国などは日本と大きく使用割合に差はありませんが、香港では6%を超えています。
そのほか、東南アジア諸国では10%を上回る国が多く存在しており、日本の普及割合は低いといわざるを得ません。
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ピルに避妊以外の効果はあるの?
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ピルは女性ホルモンの分泌をコントロールするはたらきのある薬剤です。避妊以外にも生理のリズムのコントロールや月経前症候群(PMS)の軽減、子宮内膜症や卵巣がんの予防などの効果も期待できます。
そのほか、肌荒れ改善やニキビの予防効果も見込めます。
ピルへの理解が深まれば使用割合は増える
日本は世界的に見てもピルの使用割合が非常に低くなっています。理由としては、性教育が不十分でありピルなど女性が主体となる避妊手段などの理解が不十分なことや、避妊手段が男性主導になっていることが考えられます。
諸外国の様に早い段階で十分な性教育が実施され、ピルに対する理解が深まればピルの使用割合も高まるのではないでしょうか。ピルへの理解を深めるための第一歩として、この記事が少しでも役に立てば幸いです。