JR浜松町駅から徒歩5分にある「TETSU形成・美容クリニック」。深刻な悩みを抱える患者さまたちが全国から訪れる場所です。その多くは、他院での美容医療後にトラブルを抱えてしまった方々。患者さまたちの最後の砦となっているのが、院長の田中哲一郎(たなかてついちろう)先生です。「名医」と呼ばれることをよしとせず、常に高みを目指して技術を磨き続ける田中先生。今回は、形成外科から美容医療、修正・再建手術へと至った経緯と、その独自の哲学についてお話を伺いました。
形成外科医として、美容医療の「影」を正したい

____先生が医師を目指されたきっかけについて教えていただけますか?
田中哲一郎先生実を言うと、何か高尚な使命感があって医師になったわけではないんです。昔はパイロットに憧れていましたが、当時はインターネットもない時代。なり方がわかりませんでした。手先が器用だったので、外科医になったら面白いかもしれない、というくらいの気持ちでしたね。大学生活が6年間あるという、少し長いモラトリアム期間に惹かれたというのも、正直なところです。
____そこから、形成外科、そして美容医療の道へ進まれたのはなぜでしょうか?
田中哲一郎先生外科系に進むからには、何か面白いことをやりたいと思い、形成外科を選びました。形成外科は、失われた組織を再建するなど、非常に創造的で面白い分野です。しかし、大学病院で働く中で、保険診療の限界も感じていました。形成外科は、直接的に命に関わる科ではないため、どうしても診療報酬が低く評価されがちです。また、他科の手術の後始末のような役割も多く、どれだけ良い仕事をしても、正当な評価や対価を得にくいという現実がありました。保険診療は、どんなに優れた医師が執刀しても、経験の浅い医師が執刀しても、請求できる点数は同じです。この評価制度に、市場原理との大きな乖離を感じていました。その点、美容医療は完全な実力主義の世界です。
また、当時、形成外科医として、他院の美容整形でトラブルになった患者さまを診る機会が非常に多くありました。鼻からプロテーゼが飛び出したり、不適切な注入物で組織が壊死してしまったり。そうした惨状を目の当たりにし、「美容外科とは、ろくでもない世界だ」とさえ思っていました。だからこそ、「自分がやるからには、形成外科医として、まっとうな医療をこの世界で実践しよう」、そう決意したのです。美容医療の世界を、少しでも良くしたいという思いが、私をこの道へと導きました。
「修正・再建」に特化 ここは、最後の砦

____先生のクリニックには、どのようなお悩みの患者さまが多く来院されますか?
田中哲一郎先生私のクリニックの最大の特徴は、初めて美容医療を受ける方よりも、他院での手術後の修正や再建を求めて来られる方が圧倒的に多いことです。いわば「修正屋」ですね。沖縄や北海道を含め、全国から、本当に様々な方がいらっしゃいます。例えば、下まぶたのクマ取り手術で皮膚を取りすぎて、目が閉じなくなった「外反(あっかんべえの状態)」の修正。眉下リフトで皮膚を切除されすぎて、やはり目が閉じなくなった方の再建。整形を繰り返した結果、変形してしまった鼻の再建。脂肪吸引で頬がこけてしまった部分への組織移植など、非常に深刻で、難易度の高い症例がほとんどです。
____先生のSNSでは、そうした難しい手術の様子も包み隠さず公開されていますね。
田中哲一郎先生私のInstagramは、いわゆる「キラキラ系」の美容アカウントとは全く違います。むしろ、生々しい手術中の写真も多く掲載しています。これを始めたのは、「こんな手術を安易に生み出さないでほしい」という、他の医師たちへの警鐘の意味合いが強いですね。修正がいかに大変か、そして、一度失われた組織を取り戻すのがいかに困難かを知ってもらうことで、無責任な手術が少しでも減れば、という思いで発信を続けています。ありがたいことに、そうした発信を見て、同業の医師からの紹介や、見学の依頼も多くいただくようになりました。
「駆け込み寺」の流儀。カウンセリングから術後まで

____先生が特に注力されている皮膚移植について、詳しく教えていただけますか?
田中哲一郎先生皮膚移植*1は、失われた皮膚を、身体の別の場所から採取したご自身の皮膚で補う手術です。先ほど例に挙げた、下まぶたの外反などが主な適応となります。一見、皮膚を貼り付けるだけの単純な手術に聞こえるかもしれませんが、これは形成外科の中でも極めて高度な技術を要する手術です。なぜなら、ただ欠損部を覆うだけでは、パッチワークのようになってしまい、美しい仕上がりにはならないからです。
美しく仕上げるには、移植する皮膚と、移植される側の皮膚の「色」「質感」「厚さ」「角度」、そのすべてを完璧に合わせる必要があります。例えば、まぶたの皮膚は非常に薄いので、それに近い質感の皮膚を、顎の下などから丁寧に採取してきます。傷跡が最も目立たなくなるように、組織の角度を計算し、精密に縫合、そうした細部へのこだわりが、術後の自然な仕上がりを左右しますね。これは、美容外科というより、まさに形成外科の「再建外科医」としての仕事です。組織を動かし、移植し、失われたものを再構築する。そうした手の込んだ手術にこそ、私は面白さとやりがいを感じます。
____修正手術を希望される患者さまの施術は、どのような流れで行われますか?
田中哲一郎先生まず、カウンセリングに非常に長い時間をかけます。当院には、いわゆる「カウンセラー」はおりません。私自身が、患者さまと30分、40分とじっくり向き合います。これまでの手術歴、現在の問題点、「どうなりたいか」を詳しく伺います。その上で、最も重要なのが、「イメージギャップをなくす」ことです。修正手術で、元の状態、あるいはハリウッド女優のような理想の状態に完全に戻れる、という過度な期待を抱かれている方も少なくありません。私は、そうした方には、あえて失敗症例の写真もお見せしながら、修正手術の限界とリスクを正直にお伝えします。そして、「どうしますか?」と患者さまご自身に問いかけます。私は決して、「絶対にやった方がいい」とは言いません。最終的に決断するのは、患者さまご自身です。そのために、セカンドオピニオンを求めることも強くすすめています。
手術は、症例によりますが、局所麻酔と静脈麻酔の併用です。術後は、遠方から来られる方も多いため、近くのホテルに一泊していただき、翌日に状態を確認することが多いですね。その後も、組織が生着するまで、責任を持って経過を診させていただきます。
医者をきちんと選び、安易に飛びついてはいけない

____診察を行う上で、先生が最も大切にされていることは何でしょうか?
田中哲一郎先生先ほどお話しした、「患者さまのイメージギャップをなくすこと」「患者さまの自主性を重んじること」です。「先生ならどうしますか?」という質問は、責任を他者に委ねようとしているサインだと捉えています。ご自身の身体のことですから、メリットもデメリットも全て理解した上で、ご自身で決断していただく。そのための情報は、全て正直に提供する。それが私のスタンスです。
____知識をアップデートするために、どのようなことをされていますか?
田中哲一郎先生学会への参加はもちろんですが、見学に来てくれる若い先生方とのコミュニケーションも大切にしています。彼らから、SNSでの発信方法や、今の若い世代の美容のトレンドを教えてもらうことも多いですね。美容医療は、ファッションと同じで流行り廃りがありますから、常にアンテナを張っておく必要があります。
____最後に、これから美容医療を受けようと考えている方々へ、メッセージをお願いします。
田中哲一郎先生美容医療が、かつてないほど身近なものになりました。しかし、その手軽さの裏で、安易な手術を受けてしまい、取り返しのつかない結果に苦しんでいる方が増えているのも事実です。だからこそ、皆さまにお伝えしたいのは、「医者を、きちんと選んでください」ということです。値段の安さや、キラキラした広告に飛びついてはいけません。本当に信頼できる医師かどうかを見極める一つの指標は、「長期経過の症例を公開しているか」です。術後数ヶ月の綺麗な写真だけでなく、2年後、3年後、5年後にどうなっているのか。そこまで責任を持って提示している医師を選んでほしいですね。
できれば、解剖学的な知識が豊富で、万が一の際に修正・再建までできる「形成外科専門医」を選んでほしい、と個人的には思います。最初から当院に来てくれていれば、こんなことにはならなかったのに、と思う症例に、私は日々向き合っています。患者さまの人生を預けるのですから、どうか慎重に、そして賢明な選択をしてください。