静岡県島田市。茶畑が広がる緑豊かなこの地に、西洋医学と東洋医学の「いいとこ取り」で、多くの飼い主と動物たちから頼りにされているクリニックがあります。「ますだ動物クリニック」。 院長の増田国充先生は、獣医師としては珍しい経歴の持ち主です。「実は、家で犬や猫を飼ったことがなかったんです」と語る増田先生。動物愛護の精神からではなく、「生命科学」への純粋な探求心からこの道を志しました。そんな理系肌の先生が、なぜ数値では測れない「東洋医学」の道へ進んだのか。そして、診察室での何気ない「雑談」を大切にする理由とは。 「西洋医学の敵ではなく、架け橋になりたい」。そう語る増田先生の、独自の診療スタイルと医療哲学について、詳しくお話を伺いました。
「犬も猫も飼ったことがない」少年が、獣医師になるまで

____まずは、先生が獣医師を目指された経緯について教えていただけますか?
増田国充先生私はここ静岡県島田市の出身で、高校も地元の学校に通いました。獣医師というと、「小さい頃から動物に囲まれて育った」とか「ペットの病気をきっかけに」というエピソードを持つ方が多いのですが、私は全く違うんです。実は、家で犬も猫も飼ったことがありませんでした。
____それは意外です。では、何がきっかけだったのでしょうか?
増田国充先生元々、「生命科学(ライフサイエンス)」という分野に強い興味があったんです。生き物の体の仕組みそのものを学びたいという思いがありました。 進路を考える際、医師や薬剤師など様々な医療職を調べましたが、その中で獣医師という職業が持つ「職域の広さ」に気づいたんです。獣医師の仕事は、動物の診療だけでなく、公衆衛生や、食の安全を守る分野など、人間が健康に生活していくための基盤を支える役割も担っています。「貢献できる範囲が広くて面白い仕事だな」と感じ、北里大学獣医学部に進学しました。 大学卒業後は、名古屋と静岡県富士市の動物病院で勤務医として経験を積み、18年前に地元である島田市で開業しました。現在は、臨床の傍ら、動物看護の専門学校で講師として10年以上教壇に立ち、後進の育成にも携わっています。
自身の「火傷」がきっかけ。東洋医学という選択肢

____先生のクリニックでは、鍼灸や漢方などの「東洋医学(東洋医療)」を取り入れていますが、これは大学で学ばれたのですか?
増田国充先生いいえ、大学のカリキュラムには東洋医学*1は含まれていません。必修ではないので、教えてもらう機会すらないのが現状です。私がこの分野に注目したのは、獣医師になってから経験した、ある個人的な出来事がきっかけでした。 以前、私が日焼けによる火傷をして皮膚科にかかった際、処方されたのが西洋薬ではなく「漢方薬」だったんです。半信半疑で飲んでみたところ、私の体質に驚くほど合っていて、経過が非常に良かった。「自分が知らなかっただけで、こういう選択肢があるのか」と衝撃を受けました。そこから「これは動物医療にも応用できるのではないか」と考え、専門のセミナーや講座を探して勉強を始めました。
____開業にあたっての「特色」という意味合いもあったのでしょうか?
増田国充先生そうですね。個人の動物病院で、大学病院並みの高度な外科手術や設備をすべて揃えるのは難しい部分があります。開業にあたり、「自分たちにしかできない特色を出したい」と考えた時、東洋医学によるアプローチは、治療の選択肢を広げる大きな武器になると考えました。 実際に始めてみると、近隣だけでなく遠方からも患者様がいらっしゃるようになりました。「高齢で手術は難しい」「慢性的な病気で、今の治療にプラスアルファのケアをしてあげたい」といった悩みを持つ飼い主様にとって、鍼灸や漢方といった選択肢があることは、希望に繋がっているようです。
「雑談」は診察の一部。飼い主様との対話からヒントを探る

____具体的に、東洋医学を取り入れた診療では、どのようなことを大切にされていますか?
増田国充先生東洋医学で最も重要なのは、「見る・触る・聞く」といった五感を使った診察です。数値には表れない、その子の体の状態や変化を感じ取ることが基本になります。 そのため、私は診察中の「雑談」をとても大切にしています。鍼治療*1をしている間などは、飼い主様と世間話をすることが多いのですが、実は聞き耳を立ててヒントを探しているんです(笑)。
____雑談の中に、治療のヒントがあるのですか?
増田国充先生はい。「そういえば最近、家族の生活リズムが変わって…」とか「新しい子が来てから様子が…」といった何気ない会話の中に、体調不良の原因や、解決の糸口が隠されていることが多々あります。 動物は言葉を話せませんが、生活環境の変化には敏感です。飼い主様との会話を通じて、その子の性格や生活背景を深く知ることで、単なる投薬だけでは解決できない、「その子に合ったケア(養生法)」を提案することができます。これは、東洋医学に限らず、獣医療全体において非常に重要なプロセスだと感じています。
何かの専門医ではなく、「繋げる」名医でありたい

____先生は、ご自身を「何の名医」だと定義されますか?
増田国充先生「名医」なんて言われると迷ってしまいますが(笑)、あえて言うなら「色々なものを繋げる名医」でしょうか。 私は、東洋医学をやっているからといって、西洋医学を否定しているわけでは全くありません。むしろ、整形外科や循環器科など、各分野のスペシャリストの先生方が行う治療を、東洋医学的なアプローチで「サポート」したいと考えています。 例えば、抗がん剤治療を受けている子に対して、漢方や鍼灸*1を使って副作用を軽減したり、基礎体力を維持したりすることで、メインの治療を続けやすくする。原因を治療する西洋医学と、体のバランスを整える東洋医学。それぞれの良いところを繋ぎ合わせ、その子が本来持っている力を引き出すのが私の役割です。
____最後に、この記事をお読みの飼い主様へメッセージをお願いします。
増田国充先生「もう歳だから」「薬を使いたくないから」と、治療を諦めたり悩んだりしている方は、ぜひ一度ご相談ください。 痛み止めを使わずに鍼で痛みを和らげたり、お家でのマッサージや食事の見直しでQOL(生活の質)が向上したりすることは珍しくありません。私たちは、病気だけを見るのではなく、動物とそのご家族の「生活」そのものが幸せになるよう、幅広い選択肢から最適なケアをご提案します。ウサギさんなどのエキゾチックアニマルも大歓迎ですので、気軽にお話しに来てくださいね。

