埼玉県新座市。閑静な住宅街の一角に、地域の人々から厚い信頼を寄せられる動物病院があります。「ふじわら動物病院」。院長の藤原光宏先生は、獣医師歴20年以上のベテランでありながら、ホモトキシコロジーやオゾン療法、中医学といった「統合医療」にも精通する、知る人ぞ知る名医です。 「飼い主様が幸せになると、動物も幸せになる」。その診療哲学の裏には、数値などのデータだけに囚われず、動物と家族の「心」までをも診る、深い洞察力がありました。しかし、そんな藤原先生が獣医師を目指したきっかけは、なんと「ある勘違い」だったと言います。今回は藤原先生に、意外すぎる獣医師への道のりや、病気との向き合い方、そして飼い主様が家庭でできる一番のケアについて、詳しくお話を伺いました。
「ムツゴロウ王国」に憧れて。勘違いから始まった獣医師人生

____まずは、先生が獣医師を目指された経緯について教えていただけますか?
藤原光宏先生きっかけは、子供の頃によくテレビで観ていた「ムツゴロウ王国」です。画面の中で動物たちと自由に触れ合う姿に憧れ、「将来は動物に関わる仕事に就きたい」と強く思うようになりました。 実は、本当になりたかったのは獣医師ではなく、「動物園の飼育係」だったんです。
____飼育員さんですか。そこからなぜ獣医師の道へ?
藤原光宏先生ここが私の人生の分岐点なのですが、大学に入るまで「動物園の飼育係になるには、獣医師免許が必要だ」と完全に思い込んでいたんです(笑)。 獣医大学に入学して勉強を始めてから、「あれ?飼育係は獣医師じゃなくてもなれるんだ」という事実に気がつきまして……。でも、もう入学してしまった後だったので、そのまま獣医師の道を進むことにしました。
____それは驚きのエピソードですね(笑)。
藤原光宏先生はい。もちろん、獣医師免許を取ってから動物園に就職する道もありましたが、動物園の獣医師というのは非常に狭き門です。欠員が出ない限り募集もありません。そういった現実もあり、犬や猫などの小動物を診る臨床獣医師の道を選びました。 入り口こそ勘違いでしたが、今は動物の命を助けるこの仕事に大きなやりがいを感じています。結果として、この道に進んで本当に良かったと思っています。
「木を見て森を見ず」にならないために。全体を診る診療

____先生が得意とされている診療や、診察の際に心がけていることはありますか?
藤原光宏先生私は、「症状や数値だけを見るのではなく、その子全体を診る」ことを常に意識しています。 例えば、「下痢」という症状で来院されたとしても、それが単なるお腹の問題とは限りません。別の病気が隠れていて、そのサインとして下痢が出ている可能性もあります。ですので、症状がある部分だけを診るのではなく、必ず全身をチェックして、他に問題がないかを確認するようにしています。
____検査の数値についても、独自の視点をお持ちだそうですね。
藤原光宏先生はい。検査をして「肝臓の数値が高い」という結果が出たとします。しかし、その子自身が苦しんでいるのは、肝臓ではなく別の場所かもしれません。 数値が高いからといって、すぐにその数値を下げる治療をするのが正解とは限りません。「数値は悪いけれど、本人の元気はある」「数値はそこまで悪くないけれど、食欲がない」など、状況は様々です。検査データという「木」を見るだけでなく、その子の体全体という「森」を見て、「今、この子にとって一番優先すべき治療は何か」を判断するようにしています。
____実際に診療を受ける際の流れを教えていただけますか?
藤原光宏先生まずは、飼い主様から詳しくお話*1を伺います。いつから調子が悪いのか、お家での様子はどうかなど、些細なことでも構いません。 その後、身体検査や必要に応じた検査を行い、西洋医学的な診断をつけますが、当院ではそこで終わりません。その子の性格や体質、そして飼い主様のライフスタイルやご希望も踏まえた上で、治療方針をご提案します。西洋医学的な薬だけでなく、負担の少ない統合医療(中医学など)の選択肢も交えながら、そのご家族にとってベストな方法を一緒に決めていきます。
医学的な「正解」が、家族の「正解」とは限らない

____飼い主様とのコミュニケーションで、特に大切にされていることは何でしょうか?
藤原光宏先生「一方的に治療を押し付けない」ということです。 私は獣医師ですから、病気を治すために医学的に最も効果が高い方法を提案します。しかし、それが飼い主様にとって「納得のいく方法」であるとは限りません。費用の問題、通院にかかる時間の問題、そして「痛い思いをさせたくない」という感情の問題。それぞれの家庭に事情があります。
____高度な治療が、飼い主様の負担になってしまうこともありますね。
藤原光宏先生おっしゃる通りです。医学的に正しいことが、そのご家族にとっての正解だとは限りません。 だからこそ、私は飼い主様のお話をじっくり聞き、どこまで治療を望んでいるのか、何が一番の不安なのかを共有するようにしています。「この治療でなければダメだ」と決めつけるのではなく、飼い主様が無理なく続けられ、心から納得できる治療法を選べるよう、選択肢を提示し、寄り添うことを心がけています。
飼い主様の笑顔が、動物たちへの一番の薬

____最後に、ペットと飼い主様が健やかに過ごすために、先生が考える「大切な習慣」を教えてください。
藤原光宏先生治療よりも何よりも、「飼い主様の心の持ちよう」が一番大切だと私は考えています。 例えば、「慢性腎臓病」と診断されたとします。これは完治が難しい病気ですが、動物本人は「自分は腎臓病だ」なんて知りません。「なんかちょっとダルいな」くらいに感じているだけです。しかし、病名を聞いた飼い主様が「もう治らないんだ……」と深く落ち込んでしまうと、どうなるでしょうか。
____家の中の空気が暗くなってしまいそうですね。
藤原光宏先生そうなんです。動物は言葉がわかりませんが、雰囲気には非常に敏感です。大好きな飼い主様が暗い顔をしてため息をついていると、その「負の気」に引っ張られて、動物まで元気がなくなってしまうんです。 逆に、飼い主様が「病気だけど、今できることをしてあげよう!」と気持ちを切り替え、明るく接していると、不思議と動物の状態も上向いてくることがよくあります。 「飼い主様が幸せになると、動物も幸せになる」。これは決して精神論ではなく、私が長年の診療で実感している事実です。病気になっても、悲観しすぎず、その子と一緒にいられる時間を大切に、笑顔で過ごしてあげてください。それが、何よりの薬になります。

