栃木県鹿沼市。緑豊かな住宅街の一角に、地域の飼い主さまから信頼を集める「しのはら動物病院」があります。2014年に院長である兄・篠原雄大先生が開業し、2018年に現在の場所へ移転したこの病院に、2024年から新たに加わったのが、弟の篠原健大先生です。北里大学獣医学部を卒業後、東京都内や埼玉県内の動物病院で約10年にわたり臨床経験を積み、とりわけ軟部外科と腫瘍外科の分野で研鑽を重ねてきました。日本小動物医療センターでの外科研修や、獣医腫瘍科Ⅱ種認定医の資格取得など、高度な外科医療の技術を身につけた篠原先生。「これまで二次診療施設に送るしかなかった手術を、自施設でもできるようにしたい」という強い思いを胸に、日々の診療に臨んでいます。今回は篠原先生に、獣医師を志したきっかけや、診療で大切にしていること、そして今後の目標について、詳しくお話を伺いました。
動物が常に身近にいた子ども時代。兄の背中を追って、獣医師の道へ

____先生が獣医師を目指されたきっかけについて教えていただけますか?
篠原健大先生物心ついた頃から、家にはハスキー犬がいました。動物が常に身近な存在だったということが、一番大きかったと思います。途中で飼っていた動物が亡くなるという経験もしました。当時かかっていた動物病院で、手術を間近で見せていただいたこともあります。そうした経験を通じて、動物の命を預かる獣医師という仕事の存在を知りました。そして、先に兄が獣医の道に進んでいたことも、大きな影響がありました。元々動物が好きだったこと、身近に動物がいたこと、兄が獣医になったこと。その三つが重なって、自然とこの道に進みました。
____お兄様の存在が、先生の後押しになったのですね。
篠原健大先生そうですね、多少そういうところはあると思います。子どもの頃は、獣医師という職業自体をあまり知りませんでした。でも、自分の飼っていた動物の治療を通じて動物病院という場所を知り、兄が獣医師になっていく姿を見ているうちに、自然と自分もなりたいと思うようになりました。
臨床に真っすぐ向き合いたい。兄の病院に合流した理由

____しのはら動物病院に勤務されることになった経緯を教えてください。
篠原健大先生兄が2014年に開業して、ありがたいことに多くの患者様にご来院いただいていますが、診療の質を保ちながら兄一人で多くの患者様に対応することに難しさを感じていたようです。一方で、私自身は経営にはあまり関心がなく、純粋に臨床に集中できる環境を求めていました。以前の勤務先で分院長を打診されたこともありましたが、自分には経営に携わるよりも、診療に専念できる環境の方が向いていると感じていたのです。兄の病院であれば、自分は臨床に真っすぐ向き合える。そう考えて、兄の元で働くことを決めました。
____今の環境は、先生にとって理想的な形なのでしょうか。
篠原健大先生こちらに勤務してまだ2年足らずですので、現在自分の担当する患者様はそれほど多くないです。以前に勤務していた病院では重症から軽傷までたくさんの患者様を担当していたので、正直なところまだ物足りなさはあります。一方で、時間的余裕ができたこともあり、これまでは県外の二次診療施設に紹介していた手術にも少しずつ対応できるようになってきています。今後もより幅広い症例に対応できるようになれば、理想的な形に近づくと思います。
____お兄様と一緒に診療されることで、お互いに心強いのではないでしょうか。
篠原健大先生一人より二人の方が、やはり気は楽ですね。困った時や悩む時に、共感してもらえる相手がいるというのは大きいです。また、これまでお互い違う環境で働いてきたので、一方にしかない知識や経験も持っています。その知識や経験を共有しながら切磋琢磨しています。
エビデンスに基づく治療提案と、後悔のない選択のために
____診療において、先生が大切にされていることは何でしょうか?
篠原健大先生基本は、その動物にとってのベストな方法を、エビデンスに基づいて提案することです。ただ、ベストな方法ほど、費用がかかったり、治療にリスクが伴ったりすることが多いです。いくら動物のためとはいえ、治療が終わった後に飼い主さまが後悔してしまっては、元も子もありません。ですから、複数の選択肢を提示して、それぞれのメリットとデメリット、これまでに報告されているデータ上の治療効果までお伝えした上で、飼い主さまと一緒に方針を決めていくことを心がけています。分かっていることと分かっていないことをはっきりとお伝えし、根拠に基づいた説明を行うことを大切にしています。
____データを添えてご説明いただけるのは、飼い主さまにとって心強いですね。
篠原健大先生事前に納得した上で治療に臨んでいただけることが、大きいと思います。動物の医療では、まだエビデンスが十分に確立されていない分野も多いのが現実です。ですから、分かっていることと分かっていないことを正直にお伝えすることが、信頼関係の土台になると考えています。 たとえば腫瘍の手術でも、取り切れて元気になったとしても、腫瘍の種類によっては高い確率で転移が起こることもあります。「大きい手術を乗り越えたら治る」と思われている方も少なくないのですが、術後に起こり得る経過まで含めてお話しした上で、どの選択肢を取っていくかを慎重に話し合う。後から振り返って「後悔しなかった」と思っていただける治療を、常に目指しています。
栃木に高度な外科医療を届けたい。軟部外科・腫瘍外科への挑戦

____先生が特に力を入れている専門分野について教えてください。
篠原健大先生軟部外科*1、特に腫瘍外科に力を入れています。腫瘍には以前から興味があり、獣医腫瘍科Ⅱ種認定医の資格も取得しました。また、埼玉にいた頃は、日本小動物医療センターの外科で約4年間にわたって研修を受け、高度な外科技術を学んできました。次診療施設だからこそ学べることをしっかり身につけてから栃木に戻ろう、という思いがありました。難度の高い外科手術が必要になった場合、「県外の二次診療施設まで行かないと手術できません」という話になることも少なくなく、距離や費用の問題で断念される飼い主さまが一定数いらっしゃいます。
____その課題を、先生がこの地域で解決していきたいと考えていらっしゃるのですね。
篠原健大先生はい、理想はそうですね。二次診療施設への紹介となると、移動するだけでも大変ですし、費用がかなり高額になることも珍しくありません。距離と金額を理由に、大切な命のための治療を諦めざるを得ない。それはとてもつらいことです。しかたがないと思いつつも、救える可能性があるのにもったいない、というもどかしさを感じてきました。二次診療施設の外科専門医の先生は非常に高度な知識や技術を持っているので、現実的には、我々が同等の手術を行うのは厳しいというのはわかっています。ただ、これまでより少しでも多くの疾患を自施設で治療できればと思い、日々研鑽を積んでいます。
「変化に気づく」こと。大切な家族を守るために

____ペットが健やかに過ごすために、飼い主さまが日頃から心がけるべきことはありますか?
篠原健大先生一番大切なのは、変化に気づくことです。犬もそうですし、特に猫は、分かりやすく元気がなくなったり食欲が落ちたりした時には、かなり病気が進行していることが多いのです。後からお話を聞くと、「そういえば2、3か月前から少しずつ痩せてきていた」「軟便が増えていた」「水を飲む量が変わっていた」とおっしゃる方がとても多い。その時点でご来院いただいていたら、間に合ったかもしれない。そういうケースが、本当に多いのです。普段からその子なりの「普通」を知っておいていただきたい。そして、小さな変化に気づいたら、あまり様子を見すぎずに、一度病院にかかっていただきたいと思います。変化に気づくこと、そして気づいたら早めに行動すること。それが、大切な家族を守る一番の方法だと考えています。
____最後に、この記事をお読みの飼い主さまへメッセージをお願いします。
篠原健大先生「こんなことで受診していいのかな」と迷われている飼い主さまは、たくさんいらっしゃると思います。でも、迷ったら一度来ていただきたいのです。ワクチン接種のために来院された際に、たまたま心臓の雑音が見つかるということも、実は珍しくありません。ワクチンを打っていない子は、そもそも病院に来る機会がないため、そうした異常に気づくきっかけすらなくなってしまいます。定期的な予防の受診が、結果として早期発見につながることは、本当に多いのです。何もなければ、それは安心を得たということです。 また、手術が必要な病気が見つかった場合でも、「専門の病院が遠い」「費用が高い」という理由で治療を断念されることがないよう、私自身が技術を磨き続け、この地域でできる治療の選択肢を広げていきたいと考えています。距離や費用を理由に、大切な命を諦めなくてもいい環境を、この栃木に作っていくことが、私の目標です。 大切な家族の一員であるペットのために、少しでも気になることがあれば、どうぞ気軽にご相談ください。飼い主さまと動物たちが、後悔のない選択をしていけるよう、全力でお手伝いいたします。
