鹿児島市高麗町。国内で初めて病院建築物として意匠登録された「ゼロ導線病棟」を持つキラメキテラスヘルスケアホスピタル。その泌尿器科科長である内田洋介先生は、トランスジェンダー診療の第一人者として日々多くの患者さんと向き合いながら、「性の専門家」として日本全国で講演を行っています。性別変更の手術要件が最高裁で違憲とされたことでも注目を集めるトランスジェンダー。その診療と今後の展望についてお伺いしました。
研究テーマに選んだのは「男性器」
___はじめに、泌尿器科を選んだ理由を教えてください。
内田洋介先生曾祖父、祖父、父親と続く眼科医の家系に生まれ、医学生時代から「眼科医にだけはなるまい」と決めていたんです(笑)。当時から「性」というテーマに関心があったこと、そして解剖実習で男性生殖器の特殊な構造を学んだことが決め手となり、泌尿器科を選びました。幅広い症例を経験したくて、大学でも勤務先の病院でも積極的に患者さんを引き受けていましたね。
___内田先生が得意とされている治療は何でしょうか?
内田洋介先生勃起不全や射精障害といった男性特有の問題に向けたアプローチに加え、不妊診療や夫婦関係に関わるカウンセリング、性別不合に対するホルモン治療など、性と生殖に関することであれば、どんなことでも相談に乗れます。トランスジェンダーの分野では男性・女性ホルモンの投与が主な治療となりますね。また近年では教育機関や弁護士事務所などから講演のご依頼をいただくことも増えました。
ある患者さんとの出会いから、トランスジェンダー診療を開始
___なぜトランスジェンダー診療に関わるようになったのでしょうか?
内田洋介先生30年近く前に海外で性別適合手術を受けた後、排尿障害が起きてしまった患者さんの主治医になったことがきっかけです。性別不合はまだまだ世間的に認知されておらず、相談できる相手が少ないという事情から、ホルモン剤を個人輸入してみたり、自己判断で手術に踏み切ったり、合併症や副作用のリスクがある方法を選択してしまうケースが少なくありません。行政を通じてトランスジェンダーに関わる問い合わせが増えていたこともあり、2008年に鹿児島大学で専門外来を開設しました。それ以来、九州・南日本エリアでは数少ない専門家として数多くの患者さんと関わっています。
___トランスジェンダーの問題では精神面のケアも重要になりますね。
内田洋介先生おっしゃる通り、性別不合の患者さんは日常生活のいろいろな場面で困っていますし、またホルモン治療にあたっては精神科医の診断が必要となるため、精神科の先生と連携しながら診療を行っています。一方で、そのネットワークが整っている地域はまだ少なく、安心して相談できる場所を増やすことが今後の課題だとも思っています。LGBTQというワードが世界的に注目を集め、法律の整備なども進んでいる昨今ですが、すべての人が健康を維持できる医療体制の構築が急務です。
誰もが健やかに生きられる世界に
___診療の場ではどんなことを大切にしていますか?
内田洋介先生患者さん一人一人の声に耳を傾けつつ、身体の変化を細かくチェックすることですね。身体的性別によって採りうる治療方法が大きく異なりますし、ホルモンは日々少しずつ分泌される非常にデリケートなものなので、一度の治療で多めに投与すればいいというものではないんです。肌荒れや顔の火照り、脱毛といった副作用の問題もあるため、経過を見ながら微調整していく必要があります。日常生活と通院回数のバランス、副作用を抑えるための投与量のバランス、そして何よりも患者さんの心と身体のバランス。患者さんにとっては一生付き合っていかなければならない問題ですから、なるべく自分の思い通りに暮らせるよう、いつも隣で支えているつもりで診療に臨んでいます。
___最後に、患者さんへのメッセージをおねがいします。
内田洋介先生男性であれ女性であれ、性の悩みはどんな年齢の方にもあります。恥ずかしくてなかなか打ち明けられないという方も多いのですが、ありのままの自分で健康に生きられることが一番。何か不安や不調を感じたら、決して自分一人で抱え込まず、まずは専門家に相談してみてほしいですね。