愛知県豊明市に位置する藤田医科大学病院。形成外科の准教授、井上義一先生は、口唇口蓋裂をはじめとする先天異常の治療で豊富な経験と実績を誇ります。その高度な再建技術は、美容外科領域、とりわけ複雑な「鼻の修正術」においても高く評価されています。今回は井上先生に、医師を目指した原点や形成外科・美容外科への道のり、そして難易度の高い鼻の修正術について、詳しくお話を伺いました。
『ブラック・ジャック』への憧れと、運命的な形成外科医との出会い

____先生が医師を目指されたきっかけについて教えていただけますか?
井上義一先生小学生の頃に見た手塚治虫先生の漫画『ブラック・ジャック』がきっかけです。死に瀕した人を助ける姿に、子どもながらに「すごいな」と憧れを抱いたのを覚えています。もともと生き物が好きで、田舎育ちだったので動物に囲まれて育ちましたし、そういった生命に対する興味も根底にあったのかもしれません。
実は、私の実家は滋賀県で会社を経営しておりまして、長男だったため家業を継ぐという道もありました。しかし、医師免許を取れば、ある意味、家業から離れて自立できるのではないか、という少しよこしまな考えもあり(笑)、周囲の反対を押し切って医学部に進学しました。
____そこから、形成外科、そして美容外科の道へ進まれた経緯はどのようなものだったのでしょうか?
井上義一先生藤田保健衛生大学(現:藤田医科大学)医学部を卒業後、実家のある滋賀県の滋賀医科大学の第一外科(一般外科)で研修医として勤務しました。一般外科医で学ぶ中で、食道がん手術で有名な北海道の恵佑会札幌病院へ行くことを勧められ、行った先で出会った先生がとってもかっこよかったんです。
がんで食道を切除する手術は一般外科の先生が行うのですが、その後の再建手術(腸を首のあたりまで持ってきて繋ぐ時に、血管も一緒に繋ぐ手術)を、形成外科の先生がやっていました。非常に高度で繊細な手技を目の当たりにして、「一般外科医でもできないことをやる専門分野があるのか!」と、形成外科医の技術の高さと奥深さに衝撃を受け、強く惹かれました。
美容分野に興味を持ったのは、その先生が普段、開業されている美容外科で働かれていたということもありますが、私の専門が口唇口蓋裂をはじめとする先天異常の治療だったので、美容外科の技術が必要だったということもあります。形成外科と美容外科は密接にリンクしていると感じ、美容医療の分野にも深く関わるようになりました。
形成外科で培った技術を、難易度の高い鼻の修正術へ

____先生が得意とされている施術について教えてください。
井上義一先生鼻の修正術*1を得意としています。というのも、口唇口蓋裂の患者さまの場合、唇だけでなく、鼻の変形を伴うことが多いことから、複雑で高度な鼻の再建手術を数多く経験してきました。その経験が、美容外科における鼻形成、とくに他院で受けた手術後の修正術において、大いに役立っていると感じています。
____鼻の修正術を受ける場合、どのような流れになりますか?
井上義一先生まず、ご来院いただき、カウンセリングをさせていただきます。そこでは、これまでに受けた鼻の手術の内容や、現在どのような点にお悩みで、最終的にどのような鼻になりたいのか、といったことを詳しくお伺いします。 次に行うのがCT検査です。鼻の内部構造や過去に入れられた人工物を把握し、詳細な手術計画を立てますね。鼻は見た目の美しさだけでなく、呼吸という重要な機能も担っていますので、機能面もできる限り維持、あるいは改善できるようにプランニングします。 手術は鼻を切開し、問題のある人工物などを除去したり、患者さまご自身の肋軟骨を用いたりして、鼻の形を整えていきます。皮膚が薄くなっている場合には、他の部位から採取した真皮で補強することも。一つ一つの工程を、ミリ単位の精度で丁寧に行います。
____手術回数が多いことによるリスクについて教えてください。
井上義一先生手術を繰り返すごとに、感染のリスクや、皮膚の血流が悪くなって壊死(えし)してしまうリスクは確実に高まって行くんですね。なので、カウンセリングでは、現在の鼻の状態と、修正手術を行うことのメリット・デメリット、そして伴うリスクについて、包み隠さず、時間をかけてご説明します。それで「リスクを理解した上で、どうしても井上に任せたい」というお互いの信頼関係が成立した場合、一緒に頑張りましょう、という形で手術をお引き受けします。
期待に応えたい、精魂込めて向き合う治療

____最後に、この記事をお読みの患者さまへメッセージをお願いします。
井上義一先生この年になり、様々な患者さまやそのご家族の気持ちに触れる中で、医療に対する責任の重さを日々感じています。とくに修正手術は、患者さまにとって最後の望みを託されることも多く、その期待に応えたいという一心で、手術に精魂込めて臨んでいます。
しかし、医療は万能ではありません。どんなに最善を尽くしても、全ての期待に100%応えられるとは限りません。それでも、患者さまにとって最善の道を探します。
鼻のこと、美容のことで、悩んでいらっしゃる方は、どうか一人で抱え込まず、一度ご相談にいらしてください。一緒に解決の道を探しましょう。