東京メトロ・東銀座駅の目の前にある「銀座アイグラッドクリニック」。院長の乾雅人先生は美容皮膚科医として「自然美の追求」を掲げ、国内随一である薬液を活用した「ショートスレッドリフト」の治療を展開しています。そもそも薬液の研究者である先生の最大のテーマは「老化治療」。臓器移植の研究や指定難病の治療も行いながら多方面で活躍しています。
今回の乾先生のご紹介記事は前後編の二部構成。
前編では、先生が独立に至った経緯や、医療業界の社会問題などについて詳しくお聞きしました。
プロの経営者となり、医療業界に変革を起こす
___先生が医師を志したきっかけ、さらに独立に至るまでの経緯を教えてください。
乾雅人先生父が呼吸器外科の医師だったことが影響しています。私が5歳の時に肺移植の研究でドイツに留学した姿に憧れ、兄と共に東大医学部に進学し、兄は心臓外科を、私は呼吸器外科を選択しました。ただ、国の財源が乏しいことで、専門分野である薬液の研究が思うように進められず挫折を味わい、自ら経営者としてクリニックを開業することを決意しました。
今という時代ほど、医師の在り方が問われる時代はないと考えています。5歳の時の憧れの通りに生きるだけでは、時代の変化に対応できませんでした。
手段としてクリニックを独立開業し、大学病院や各種のセンター病院と協調して、薬液の検証を行い、実際の患者である皆さまの役に立とうとしています。
このように、薬液の研究者としてあらゆる角度から患者である皆さまの治療を行っていますが、中でも「老化治療」が私の最大のテーマです。老化を治療することは、人の健康を守ることができる上、財源の圧縮にも繋がります。国の研究機関での実現が難しいならば、自らがプロの経営者になり目の前で苦しむ患者である皆さまを救いたいと考えています。
___薬液の研究を行い老化治療を行っている先生ですが、中でも美容に特化したクリニックを開業したのはなぜでしょうか?
乾雅人先生どの業界でも、現場を経験した人にしか気づけない課題というものがあります。医療現場も同様です。私のライフワークは、医師にしか気づけない社会問題と向き合うことです。
この医療観を一般の方々に伝えるのに、美容というのは最も身近で、関心をもってもらえる領域だと感じたからです。
また、美容医療業界にはガイドラインがなく、結果として、一般の方々が不利益を被っていることも、同様に決め手となりました。
___先生が考える「医師にしか気づけない社会問題」とはどういうものでしょうか?
乾雅人先生一つは、医療費の問題です。例えば、昨今のコロナ対策では、その財源を確保するために増税が行われたり、さらには子どもたちの青春が犠牲になるということも起こりました。
医療費が嵩むことで国の税制が厳しくなる「医療費亡国論」は何十年も前から指摘されていたことですが、それに対し、これまで誰も解決策を提示してこなかったというのが事実です。私自身、父の姿に憧れ、医師になってしばらくは大学で研究を続けていましたが、同時に、その憧れの通りに生きることは、本当に善良な生き方なのだろうか、と疑問を抱くようになりました。
さらに、医師の労働時間も問題です。実は、医師の過労死基準は、一般の方々の2倍に定められているのです。仮に、一般の方々の過労死基準の1.5倍働いた場合、医師を対象とするならば合法と厚生労働省という公的機関から通達が出されているのです。過激に言えば、医師が人間扱いされていない、とも言えます。
___それらの社会問題の解決策はあるのでしょうか?
乾雅人先生難しい問題だと思います。
学生時代、友人たちと喧々諤々、議論しました。結論として、政治によるか、法律によるか、事業によるか、のどれかしかないだろう、と。
ビジネスを通じて社会問題を”見える化”することが、もっとも可能性がありそうに感じています。
コロンブスの卵になってみたいのです。
___そのことが医療業界の底上げにも繋がると?
乾雅人先生そうですね。医師のキャリアを再定義できるのではないかとも考えています。
一般企業ではジョブローテーションが当たり前です。ある時は営業、ある時は経営企画、ある時は物流や在庫の管理、など。
その領域のスペシャリストにはなれなくとも、全体観、大局観をつかむためには非常に有意義です。
社会の全体最適を考えるならば、医師という社会資源も、ある時は臨床現場、ある時は製薬会社、ある時は医療領域のIT会社、など、多様な現場で活用の機会を模索して良いと思います。
私が医療コンサルタントとして実務経験を積み、プロ経営者として独立したのも、その一環だと思っています。
医師のキャリアはもっと多様であって良いのではないでしょうか。
ガイドラインがない、という美容医療の社会問題
___美容医療の社会問題はガイドラインがないことだとも言われましたが、具体的にはどのようなことでしょうか?
乾雅人先生例えば、心臓の病気への対応は、まず内科治療を行い、カテーテル治療、その後外科手術という順番で進めていき、内科治療やカテーテル治療で治る人に外科手術を行うことはありません。負担が少ないもので適用するという医療の原理原則に従ったガイドラインがあり、仮にいきなり外科手術を行なうと、場合によっては、犯罪行為にもなり得ます。
一方で、美容医療にはそのようなガイドラインがないために、結果として患者である皆さまにリスクが押し付けられてしまいます。リスクに対してリターンがあります。しかしながら、Before → Afterなどのリターンは目に見えても、裏に潜むリスクは”見える化”できません。このリスクに対する感覚が、医療従事者と一般の方々で異なるのです。
どこまで突き詰めても、この情報格差には超えられない溝があります。だからこそ、医療従事者は、患者である皆さまにリスクを押し付けてはいけないのです。ガイドラインが必要な理由です。
___「美養と老化を科学する。」というキャッチコピーに込められた意味を教えてください。
乾雅人先生今という時代 「老化は治る。」ということが新常識になりつつあります。アポロ計画が「人類は月面に到達する」という計画だとしたら、こちらは「人類は老化という病を克服する」という内容です。いずれも、その意味合いは、後から振り返って評価されることになります。
私は一足早く、この新しい医療の原理・原則を追求しているだけです。
キャッチコピーには続きがあり、「がんと老化を科学する。」「難病と老化を科学する。」となります。それだけ、老化を治療するとは裾野が広いものであり、美容医療でも応用する余地が大きいと考えています。
老化治療薬はもとより各種の薬液の検証機関として、美容医療領域はもとより求められれば末期がんの方や、指定難病の方、コロナ後遺症の方、などの診療を引き受けたりもしています。要は、目の前で困っている患者の皆さまのために、新規性のあるチャレンジを行っていると思っていただければ。当院の存在こそが、新しい医師の在り方に問題提起をするものだと思っています。
___興味深い考え方だと思います。どうして先生は、そのような発想に至ったのでしょうかか?
乾雅人先生医療業界も社会の一部です。医療の社会問題は、類似の問題からヒントを得られるのではと思いました。特に、ガラパゴス化と揶揄された状況が解決の糸口になると思っています。
商品開発をする際、製造する側の論理をもとに行うのを「プロダクトアウト」、顧客である側の論理をもとに行われるのは「マーケットイン」と呼ばれます。スマホに対してガラケーがたどった末路から学ぶべきは、ゴールポストの位置を示す「マーケットイン」の感覚なくして、独善的、盲目的に取り組んではいけないということです。
同様のことは、今という時代、医師が提供する医療にも当てはまる可能性があります。時代の声、社会の声に耳を澄ませると、「老化治療薬」の可能性には注目すべきです。
老化治療という切り口ならば、美容領域、がん領域、難病領域、生活習慣病、など、多様な領域で、患者である皆さまの役に立つことができます。
そんな新しい取り組みの先行事例になってみたいのです。
〜後編に続く〜