2022年、京都の阪急長岡天神駅より徒歩3分の場所にいわきクリニックICが開院しました。大きな看板も掲げず宣伝も行わないという”隠れ家クリニック”を営んでいるのは、フィラー注入の講演会や医学書などでも知られる岩城佳津美院長です。 ご自身のライフワークでもあるというフィラー注入について、その魅力と注意点、指導医の立場として若い先生に伝えていきたいことなどをお伺いしました。
フィラー注入に魅せられて
____新しいクリニックを開院された経緯を教えていただけますか?
岩城佳津美先生20年前にいわきクリニック形成外科・皮フ科を開院し、保険診療と美容診療のどちらも診てきました。ですが体力的にも少し負担になってきたことと、自分自身の人生も充実させたいという思いが強くなってきて、診療科でクリニックを分けることにしました。 こちらのいわきクリニックICは、私のライフワークでもあるフィラー注入と美容皮膚科の診療のみを行なっています。
____フィラー注入は先生のライフワークなんですね!
岩城佳津美先生はい。注入治療は25年くらい前から力を入れています。始めた当時、注入できる製剤はコラーゲンくらいしかなくて、注入治療といっても浅いシワにちょこちょこと入れる程度でした。 しばらくして日本にレディエッセというカルシウムハイドロキシアパタイト製剤が入ってきましたが、それまでの柔らかい製剤に比べて粘弾性が非常に高いものでした。「これはもしかしたら深部に注入することで、今まで手術でしかできなかった輪郭にアプローチする施術ができるかもしれない」。そう思って実際にやってみると、思った通りの変化が得られたんです。その時からフィラー注入に夢中になっていきました。
____フィラー注入の魅力とはどんなところにあるのでしょうか。
岩城佳津美先生私は元々レーザー治療をメインにしていましたが、レーザー治療は機械の力によるところが大きいんです。良い機械さえ使えば、誰でもある程度は効果が得られるんですね。ところが注入治療は自分の技術が100%効果に現れるもの。そこがとても奥深くて、興味深いと感じましたね。 もう一つは、治療直後に効果が得られて美しくなってお帰りいただけます。この効果の早さは患者さまにとっても大きな魅力ではないでしょうか。
患者教育も医師の務め
____どのようなお悩みの患者さまが多いでしょうか。
岩城佳津美先生ほうれい線を気にしてヒアルロン酸注入*1にいらっしゃる方が多いですね。ですが老け顔に見せているのはほうれい線の深さではありません。ほうれい線が深くなる原因は顔の上部がたるんで落ちてきているから。もちろんほうれい線部分にも注入はしますが、大元の原因になっている中顔面やおでこ、こめかみなどにも注入してたるみを引き上げる必要があります。 ほうれい線や目の下のたるみは、誰が見てもわかりやすい部分。そこに直接注入すれば治るだろうと患者さまは考えがちなんですが、それだけではナチュラルな仕上がりにはなりません。このような「患者教育」をして患者さまの意識をアップデートさせるのも医師のスキルだと思っています。
____患者教育ですか。具体的にはどのようなことをしているのですか。
岩城佳津美先生患者さまにも注入治療について分かりやすく解説した「フィラー道場」というブログを書いています。最近はブログを熟読してから治療に来てくださる患者さまが増えています。ある程度治療について知識を入れてから来院された方が、医師からの説明も理解しやすいかもしれませんね。
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ヒアルロン酸注入の落とし穴
____目の下のたるみにはどのような治療をしますか?
岩城佳津美先生目元にはベビーコラーゲン*2がおすすめです。これは人由来のコラーゲンなので、アレルギーが起こらないのと、目の際にも使えるのがメリットです。とてもナチュラルに仕上がりますよ。 逆にヒアルロン酸注入は目元にはおすすめできません。目元に入れるとチンダル現象といって、ヒアルロン酸が青く透けて見えてしまって、青グマのような状態になります。またヒアルロン酸は吸湿性が高いので水を吸ってしまい、目の下にブヨブヨとした膨らみを作ってしまいます。
____そうなんですね!他にもヒアルロン酸注入の注意点があれば教えてください。
岩城佳津美先生ヒアルロン酸は注入するとすぐに効果を感じられるので、1度やると何度も何度も入れてしまいたくなるんです。シワを消すことに夢中になってしまって。ヒアルロン酸を入れすぎて顔がパンパンに腫れている写真を見たことがないでしょうか。あれは顔のボリュームを超えて入れてしまっているからなんです。 ヒアルロン酸注入で「確かにシワはなくなったけれど、なんだか不自然」ということは避けたいですよね。その場合は、HIFU(ハイフ)*3やサーマクール*4などのタイトニング効果のあるもので皮膚を外側から引き締めたり、糸リフト*5でたるんだ脂肪を引き上げていく施術がおすすめです。ただHIFUやサーマクールはヒアルロン酸に比べると効果が感じられるまでに時間がかかるんです・・・。
____それなら手っ取り早くヒアルロン酸を入れてほしいと・・・?
岩城佳津美先生そういう患者さまも多いですね。でも年相応の美しさも大事にしたほうがいいと思いませんか。ですから当院は、ヒアルロン酸注入だけではなく色々な施術を併用しながらナチュラルな美しさを目指しています。
事故のない安全な注入治療を教育
____先生は講演活動も精力的に行なっていますね。
岩城佳津美先生当院の患者さまは同業者の方がすごく多いんです。おっしゃる通り、私は注入治療で講演をさせていただいたり、教科書を書いてきましたので、そのようなものを見て来院される方がたくさんいらっしゃいます。ご自分が注入されているところを鏡で見て学んだり、動画を回しながら治療を受ける方もいますね。 私は自分で得た知識や技術はどんどん共有していきたいと思っています。一般的な商品と違って、医師の技術は患者さまのためにあるものですから。私だけの秘伝の技術などということはせずに、どんどんお伝えしています。人に教えることが自分の勉強にもつながりますしね。
____先生が教える時に大事にしていることはなんですか?
岩城佳津美先生ヒアルロン酸注入はプチ整形などと言われたりして、すごく簡単なもののように捉えられていますが、実は非常に事故が多い施術なんです。あまり表には出ていませんが、日本でも年に何件かは失明や皮膚の壊死のトラブル症例がありますし、ひどい場合は脳梗塞を起こすこともあります。これらは医師が解剖学を理解していなかったり、技術の未熟さが原因です。
____それは怖いです・・・。
岩城佳津美先生トラブル症例の患者さまが紹介で来院されることもありますが、多くの場合が医師の技術不足によるもの。ですから若い先生たちにいつも伝えているのは、何よりも安全を第一にしてほしいということ。患者さまをきれいにするのも大事ですけど、事故が起きないようにするための技術指導というのが、私の一番の目的なのかもしれません。
患者さまの喜びを医師の喜びに
____今後の先生の展望を教えてください。
岩城佳津美先生そうですね・・・。私もそれなりに年齢を重ねてきましたが、目が見えて手が動く限りは注入治療は続けていきたいですね。いわきクリニックICのコンセプトは隠れ家クリニックなので、あまり目立たずひっそり続けていければいいかな(笑)。これまで忙しく働きすぎたので、自分の人生も楽しみたいですしね。
____ありがとうございます。最後に後進を育てるお立場からメッセージをお願いします。
岩城佳津美先生今は学校を卒業してすぐに美容クリニックに勤務される先生もいますが、若いうちは臨床経験をしっかり積んでほしいですね。どうしても目先の利益に目が向きがちですが、医療は患者さまファーストであるべきだと思っています。美容治療は他の医療とは違い、病気を治すものではありませんが、治療の本質は同じであるはずです。 患者さまの人生や生活に喜びを与えられることを、医師として喜びに感じてほしい。そう思っています。